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「ありふれた教室」

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「ありふれた教室」
2024年5月27日(月)シネ・リーブル池袋にて。午後2時5分より鑑賞(スクリーン1/D-7)

~ある事件をきっかけに追い詰められる中学教師。スリリングな社会派ドラマ

 

学校現場は問題だらけと言われる。それは日本もドイツも変わらないようだ。ドイツ映画「ありふれた教室」は、学校で起きた一つの事件をきっかけに、ある教師が追い詰められていく姿を描いたサスペンス・スリラー。であると同時に、教育現場の実態を問う社会派映画でもある。

ドラマの主人公は中学校の新任教師カーラ(レオニー・ベネシュ)。校内で盗難事件が多発していて、カーラのクラスの生徒も疑われてしまう。校長らの強引な調査に反発したカーラは、独自に犯人捜しを開始。ジャケットに財布を残して席を離れ、その間をパソコンのカメラで隠し撮りするのだが……。

この学校は「不寛容主義」を掲げている。それを裏付けるように、カーラのクラスに盗難事件の犯人がいるという断定のもと、2名の教師がクラス委員を呼んで怪しいやつを教えろと要求する。生徒名簿の一人ひとりを鉛筆で指し、該当人物を示唆しろと言うのだ。もちろん強制すれば問題になるから、あくまでも任意の調査だと断ってはいるが。

これだけでも噴飯ものだが、その後もさらに校長らが愚行に出る。授業中に抜き打ち検査を決行し、生徒の財布の中身を確認するのである。大金を持っている生徒がいれば、その生徒が犯人の可能性が高いというのだ。実際にある生徒が疑惑の対象となる。

正義感が強く生徒思いのカーラは、そういう学校の強引なやり方に異を唱える。そして、自ら犯人を突き止めようと思い立つ。しかし、そこでとった隠し撮りという手段が問題だった。そこには、特徴ある柄のシャツを来た人物がカーラのジャケットに手を伸ばす映像が記録されていた。カーラは学校の事務職員のクーンを疑う。

だが、クーンは頑強に否定する。映像には顔は映っていなかった。これをきっかけに事態は紛糾し始める。何しろ隠し撮りという手段だけに、職員の間に不信感が生まれる。生徒の親たちも保護者会でカーラを吊るし上げる。生徒たちもカーラに反抗し、学級崩壊状態になる。

そして何よりも問題だったのは、クーンの息子オスカーがカーラのクラスの生徒だったことだ。カーラは母親に関係なくオスカーに普通に接しようとするが、現実はそうはいかない。彼は同級生を突き飛ばしたことから、学校から停学を申し渡されてしまう。

こうして良かれと思ってやったことが次々に裏目に出て、どんどん追い詰められていくカーラをカメラはスリリングに映し出す。手持ちカメラのドキュメンタリータッチの映像を中心に、カーラなど登場人物のアップを多用し彼らの心情をあぶりだす。

音楽も不穏なタッチのクラシック調で、予測不能なこのドラマを盛り立てる。おかげで、優れたサスペンス・スリラーになっている。

同時に、本作は教育現場の様々な問題に迫ったドラマでもある。描かれている問題の数々はドイツだけのものではなく、日本とも共通するものだと感じる。管理教育、モンスターペアレンツ、いじめ、SNSの悪弊などなど。

本作は誰が悪いかといった安直な結論は出さない。正義はそれぞれにある。教員、生徒、親。だが、それがボタンの掛け違いとなり、水に波紋が広がるように大事になってしまう。

人種問題もある。カーラはポーランドからの移民の子供だ。クラスには雑多な人種の子供たちが混在する。そうしたことも様々な場面で顔を覗かせる。

終盤、学校新聞に推測記事を書かれ、カーラはさらに窮地に立つ。このあたりでは、マスコミのありようも観客に問うているのかもしれない。

それでもカーラは生徒のために力を尽くすそうとする。細かなことは避けるが、時間をかけて生徒の説得を試みる。そこにわずかな光が見えたような気がしたのだが、ラストは……。

カーラとオスカーはどうなるのか。どうにでも解釈できるエンディングから、観客自身が思考をめぐらすしかない。数々の問題を投げかけて、映画は終わる。

カーラを演じたレオニー・ベネッシュの演技が出色だ。追い詰められていくカーラの心情をきっちり体現していた。終盤に生徒とともにあげる雄叫びには、すさまじい情念が込められていた。

これが長編4作目だというイルケル・チャタク監督の手腕も光る。スリリングで、観客に鋭い問いを投げかける秀作だ。ドイツのアカデミー賞にあたるドイツ映画賞で作品賞はじめ5部門を受賞。第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。

◆「ありふれた教室」(DAS LEHRERZIMMER)
(2023年 ドイツ)(上映時間1時間33分)
監督・脚本:イルケル・チャタク
出演:レオニー・ベネシュ、レオナルト・シュテットニッシュ、エーファ・レーバウ、ミヒャエル・クラマー、イファ・ルーバオ、ラファエル・シュタホビアク、ザラ・バウアレット、カトリン・ヴェーリシュ、アンネ=カトリン・グミッヒ
*新宿武蔵野館ほかにて公開中
ホームページ https://arifureta-kyositsu.com/

 


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