「ペナルティループ」
2024年3月23日(土)シネマロサにて。午後2時20分より鑑賞(シネマロサ1/C-8)
~タイムループものの新機軸。復讐の意味を問う
タイムループものの映画は数あれど、当たりハズレがけっこう激しい。最近では「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」はなかなか面白かったが、配信で観た「リバー、流れないでよ」は中盤ちょっと飽きてしまった。同じことの繰り返しだから、そこに何か工夫がないとね。
「ペナルティループ」もタイムループものの映画。はたして、そこに何か工夫はあるのか?
冒頭は幸せそうなカップルの朝が描かれる。岩森淳(若葉竜也)が目を覚ますと、砂原唯(山下リオ)はすでに出かける支度をしている。岩森は「行かないで」と甘えて唯に抱きつくが、唯はそれをなだめて出かける。
その後、岩森は趣味らしい模型作りをし、やがて夕食の準備をする。唯の帰りを待ちながら本を読んでいると、そこに悲報が届く。何と唯らしい人物が殺害され、その死体が発見されたというのだ。現場に出かけて身元を確認する岩森。死体はやはり唯だった。取り乱す岩森。
タイムループものと聞いているからSFなのだろうが、ここまではシリアスでサスペンスフルな展開だ。異様な緊迫感に包まれている。
それにしても、私の好きな山下リオがこんなに早く消されるとは……。「三井のリハウス」12代目リハウスガールだぞ! 彼女が出ているのもこの映画を観にきた理由の一つなのに、どうしてくれるんだ! いや、実はその後も彼女は出てくるんですけどね(笑)。
続いて映し出されるのは6月6日の朝。「おはようございます。6月6日、月曜日。晴れ。今日の花はアイリス。花言葉は『希望』です」という時計の声を聞きながら、岩森が目を覚ます。
岩森は車で職場に出勤して仕事をする。それは植物工場の仕事だった。そして、工場にやってきた素性不明の男・溝口(伊勢谷友介)を、綿密な計画のもとに殺害し、遺体を池に沈める。彼こそが唯を殺した犯人だったのだ。
だが、翌朝目覚めるとそれは同じ6月6日の朝。またしても「おはようございます。6月6日、月曜日。晴れ。今日の花はアイリス。花言葉は『希望』です」という声を聞きながら、岩森は目を覚ます。そして、周囲が昨日のままであることに戸惑いつつ職場に出かける。殺したはずの溝口は生きている。岩森はまたしても復讐を繰り返す。
というわけで、岩森が溝口を殺して復讐を果たす6月6日が何度も繰り返されるのだ。そのたびに岩森は溝口を殺す。工場の無機質な空気感も手伝って、うすら寒い風がスクリーンを吹き抜ける。音楽も何やら不気味だ。
その合間には、岩森と唯の不思議な出会いも描かれる。唯は何か秘密を抱えているらしかった。岩森は彼女にひたすら寄り添う。
それと同時に、不思議な書類を前にした岩森も映る。この時は何が何だかわからないのだが、後々になってこれが伏線であることがわかる。
6月6日のループは続く。ここで次第に岩森と溝口の関係が変化する。何しろ岩森は何回も溝口を殺すし、溝口は岩森に何度も殺されるのである。どうしたって普通の関係ではいられない。
なぜか2人はボウリング場へ行って、ボウリングをする。溝口はうまいが岩森はガーターばかりだ。溝口は岩森にボウリングを教える。復讐する方とされる方が親しく接してしまうのだ。
その果てにやはり岩森は溝口を殺害するのだが、それは最初の刺殺とは違う殺害方法によるもの。その後も殺害方法は変化し、岩森と溝口はより効率的な殺害方法を2人で模索する。最初は殺されることなど予期していなかった溝口だが、そのうちに自ら覚悟して殺されるようになる。
ここに至ってドラマはシリアスなサスペンス、あるいはミステリーから、笑いに満ちたブラックコメディへと転化する。序盤の展開からは予想がつかない方向へと走り出すのだ。
そして明らかになるのが、主人公の岩森が自らこのタイムループを選択したということ。この設定が見事にはまっている。
そして終盤は、タイムループとは別のSFチックな展開に突入。ますます予想がつかない展開で、「え? そうくるの?」と驚くばかりだった。
正直なところ唯と溝口の素性は最後までわからず、唯の抱えた秘密も曖昧なままだ。溝口に至ってはただの殺し屋に見えないこともないなど、突っ込み不足なのは明らか。そのため観終わってモヤモヤするのだが、もしかしたらそれは荒木伸二監督の意図したものなのかもしれない。だとしたらまんまとその術中にはまったわけだ。
荒木監督の前作「人数の町」は未見だが、やはりこちらもユニークなSFらしい。脚本・演出ともになかなかの腕前と見た。
本作のテーマは復讐だろう。実は劇中でアイリスの花言葉が「希望」だと紹介した後に、黄色いアイリスの花言葉は「復讐」だと告げている場面がある。そうなのだ。本作では復讐の持つ意味や、人が人を殺すことの本質を問うているのだ。岩森の持つ復讐心は、観客にとっても無縁ではないはずだ。
それにしてもユニークなドラマだ。タイムループという手あかのついたネタをひとひねりして、SFを基調にサスペンス、ミステリーからブラックコメディまで様々な色調に色合いを変化させる。時間が経てば経つほど余韻の残る映画だった。
若葉竜也は相変わらずいい味を出している。伊勢谷友介の不気味さも印象的。そして山下リオの謎めいた魅力が、本作を支えているのは言うまでもないだろう。
◆「ペナルティループ」
(2024年 日本)(上映時間1時間33分)
監督・脚本:荒木伸二
出演:若葉竜也、伊勢谷友介、山下リオ、ジン・デヨン、松浦祐也、うらじぬの、澁谷麻美、川村紗也、夙川アトム
*新宿武蔵野館、シネマロサほかにて公開中
ホームページ https://penalty-loop.jp/
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